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青森地方裁判所 昭和32年(ワ)88号 判決 1958年7月29日

原告(反訴被告) 下坂植樹組合

被告(反訴原告) 日景長太郎

主文

別紙目録記載の伐採木(青森地方裁判所昭和三〇年(モ)第一九八号換価命令に基く同年八月四日の換価処分による換価金八四二、九六〇円)が本訴原告の所有であることを確認する。

反訴原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、本訴反訴を通じ、本訴被告(反訴原告)の負担とする。

事実

(本訴)

一  当事者の申立

本訴原告(反訴被告、以下単に原告という。)訴訟代理人は、「主文第一項同旨および訴訟費用は本訴被告(反訴原告、以下単に被告という。)の負担とする」との判決を求め、被告訴訟代理人は請求棄却の判決を求めた。

二  本訴の請求原因

(一)  原告は、昭和二一年三月一九日、組合員一九九名をもつて結成された組合で、組合員の共有地たる上北郡野辺地町大字野辺地字下坂八二番二号山林一一町九反九畝七歩の地上に立木を所有し、その保護、間伐、火防等造林施設をなすことを目的としているものである。

(二)  原告は、昭和二九年一一月七日、被告に対し、右山林地上に生立する原告所有の杉、赤松および落葉松合計約八、七八〇本(材積約三、五〇〇石)を代金五、一七〇、〇〇〇円で売り渡し、右代金は、同日金六七〇、〇〇〇円、同月三〇日金二、五〇〇、〇〇〇円、同年一二月一七日金二、〇〇〇、〇〇〇円と三回に分割して払うこと、第二回分割金二、五〇〇、〇〇〇円を支払つた後は右立木全部を伐採しても差支ないこと、ただし伐採木の右山林からの搬出は代金全部を支払つた後はじめて許されるものとし、原告はそれまで伐採木全部について所有権を留保すること等を約定した。

(三)  しかして、被告は、契約当日金六七〇、〇〇〇円、昭和二九年一一日二八日金二、〇〇〇、〇〇〇円を支払つたけれども、その余の代金については、同年一二月二三日わずか金五〇〇、〇〇〇円の支払をしたのみであるにかかわらず、右立木の伐採を敢行し、しかも翌三〇年二月三日までにそのうち約六五〇石の搬出を了した。

被告は、右違約について、原告から抗議をうけると、同月二四日原告に対し、資金難であるから支払ずみ代金に相当する量の伐採木の搬出、処分を許してもらいたい旨懇請したので、原告は、やむなく、被告の右申入を容認した。

(四)  しかるに、被告は、これをよいことにして、同三〇年五月二三日までに合計金三、五七〇、〇〇〇円を支払つたのみで、残存伐採木全部を搬出してしまつた。しかしながら、被告は、まだ、代金のうち金一、六〇〇、〇〇〇円を支払つていないから、被告の搬出に係る伐採木中右未払分に相当する別紙目録記載の約一、〇五〇石については、原告は、前記特約により依然その所有権を保有しているといわなければならない。

(五)  被告は、右伐採木約一、〇五〇石をも右のように不法に搬出占有し、原告の所有権を否認している。よつて、右伐採木が、原告の所有であることの確認を求める。

(六)  なお、右伐採木約一、〇五〇石は、被告の手で処分される恐があつたため、原告において、青森地方裁判所昭和三〇年(ヨ)第七六号有体動産仮処分命令申請事件により処分禁止の仮処分をえた、そして、右仮処分の目的物は、同裁判所同年(モ)第一九八号換価命令に基き、昭和三〇年八月四日金八五〇、〇〇〇円で競売に附され、執行費用金七、〇四〇円を控除し、残金八四二、九六〇円が青森地方法務局に供託されているものである。

三  被告の答弁および主張

(一)  原告主張(一)の事実中、原告が組合であることは認めるが、その設立の日時目的等は知らない、(二)の事実中、売買に係る立木の材積が約三、五〇〇石であること、伐採木の所有権が代金完済まで原告に属することは否認するが、その余は認める。(三)および(四)の事実中、被告が昭和三〇年五月二三日までに代金のうち金三、五七〇、〇〇〇円を支払つたこと、買受立木を伐採してその搬出をしたことは認めるが、右搬出が不法になされたものであることは否認する。(六)の事実は認める。

(二)  原被告間の本件売買契約においては、目的物件の材積が、杉二、六〇〇石、赤松四五〇石、落葉松一、三五〇石合計四、四〇〇石あるものとし、杉は一〇〇石当り金一四九、二〇四円五五銭(二、六〇〇石で金三、八七九、三一八円三〇銭)、赤松は一〇〇石当り金七九、二〇四円五五銭(四五〇石で金三五六、四二〇円四七銭五厘)、落葉松は一〇〇石当り金六九、二〇四円五五銭(一、三五〇石で金九三四、二六一円四二銭五厘)の各割合で代金合計五、一七〇、〇〇〇円(二〇銭切捨)と定めたものである。従つて、民法にいわゆる数量を指示してなされた売買である。しかして、右売買立木の所有権は、契約と同時に被告の所有に帰したものであつて、原告の主張するような所有権留保の特約がなされた事実はない。

(三)  被告は、右契約に基き、契約保証金六七〇、〇〇〇円を昭和二九年一一月七日に、内金二、〇〇〇、〇〇〇円を同月二八日に、内金五〇〇、〇〇〇円を同年一二月二三日に、内金二〇〇、〇〇〇円を昭和三〇年二月二七日に、内金一〇〇、〇〇〇円を同年四月一四日に、内金一〇〇、〇〇〇円を同年五月二二日に各支払つた(以上合計金三、五七〇、〇〇〇円)。

(四)  被告は、昭和二九年一一月八日原告の監督下に、杉立木を除き、赤松および落葉松の伐採をなしうる旨原告と約定したので、これに基き同月一〇日から本件山林に生立する赤松および落葉松の伐採を開始した。その作業継続中同月一七日ころ原告組合の役員で伐採の監督に当つていた畑口権之丞の承諾をえて杉立木をも伐採したところ、同月二一日にいたり原告との間に紛争を生じた。そこで、種々交渉の結果、同年一二月二五日赤松、落葉松の伐採木につき、原告から搬出の承諾をえた。ついで、杉伐採木の搬出については、翌三〇年二月二五日原告の承諾をえた。被告は、右のように、伐採木の搬出についてはすべて原告の承諾をうけているものである。

(五)  さて、以上のように伐採した結果、本件山林の杉は、全部で一、四六〇石しかなく、当初約定の二、六〇〇石には一、一四〇石の不足があることが判明した。しかして、本件契約が数量指示の売買であることは前記のとおりであり、買主たる被告は右目的物件の不足を全く知らなかつたのであるから、被告は右杉立木の不足部分の割合に応じて代金の減額を請求しうる筋合である。しかして、契約によれば、杉は一〇〇石当り金一四九、二〇四円五五銭の割合であるから不足分たる一、一四〇石に対しては金一、七〇〇、九三一円(八七銭切捨)となり、これが代金五、一七〇、〇〇〇円から減額されなければならない。してみると、本件立木の代金は三、四六九、〇六九円となるわけであるが、これに対し、被告はすでに金三、五七〇、〇〇〇〇円を支払つていること前述のとおりであるから、結局金一〇〇、九三一円が過払となつているわけである。

(六)  以上要するに、本件立木は、売買契約とともに被告の所有に帰したものであり、その伐採および搬出については原告の承諾を受けており、かつ又代金の未払分もないのであるから、原告の請求は失当である。

(七)  なお、本件契約が数量指示の売買でないとしても、原告は被告に対し杉についてはその石数が少くとも二、四〇〇石存することを保証したものである。すなわち、杉二、四〇〇石を金三、八八〇、〇〇〇円八銭(一〇〇石当り金一六一、六六六円六七銭)、落葉松一、三五〇石を金九三三、七五〇円五銭、赤松四五〇石を金三五三、二五〇円一銭以上合計金五、一七〇、〇〇〇円で契約したのである。しかるに、杉の実在石数の前記のように一、四六〇石で、九四〇石の不足があつたから、金一、五一九、六六六円の代金減額(一〇〇石当り金一六一、六六六円六七銭の割合による。)を求める。右減額の結果、被告の支払うべき金額は、金三、六五〇、三三四円となるところ、被告はすでに金三、五七〇、〇〇〇円を支払つているから、被告の未払分は、金八〇、三三四円にすぎないものである。

(反訴)

一  当事者の申立

被告訴訟代理人は、「原告は、被告に対し、金一〇〇、九三一円およびこれに対する昭和三〇年五月二三日から支払ずみにいたるまで年六分の金員を支払え。訴訟費用は、原告の負担とする」との判決ならびに仮執行の宣言を求め、原告訴訟代理人は、主文第二項同旨の判決を求めた。

二  反訴の請求原因

本訴の答弁において述べたように、被告の代金減額請求の結果被告は、金一〇〇、九三一円を過払しており、原告はこれを返還する義務がある。よつて、右金一〇〇、九三一円およびこれに対する原告の最後の分割金受領の日の翌日である昭和三〇年五月二三日から支払ずみにいたるまで商法所定年六分の割合による損害金(被告は、木材商であり、本件売買は商行為である。)の支払を求める。

三  原告の答弁および主張

本件立木の売買は、数量指示の売買でもなければ、原告において杉の最低石数が二、四〇〇石存することを保証したこともない。原告は、山林の取引において通常行われているように、本件山林地上の立木を一括して被告に売り渡したのであるから、伐採の結果石数が被告の見込より多ければ被告の利益になるのであるし、少なければその損失に帰するのであつて、原告において責任を負うべき限りではない。(なお、原告組合員の調査するところによれば本件立木の材積は少くとも約三、七〇〇石は存在するのである。)よつて、反訴請求は失当である。

(証拠)

(一) 原告訴訟代理人は、甲第一、二号証、第三号証の一、二、第四号証の一ないし三、第五号証の一、二、第六、七号証、第八号証の一、二、第九、一〇号証、第一一ないし一六号証の各一、二、第一七号証の一ないし四を提出し、証人青沼洸、島谷善五郎の各証言を援用し、「乙第四号証の一、二の成立は知らない。その余の乙号各証の成立は認める」と述べた。

(二) 被告訴訟代理人は、乙第一、二号証、第三号証の一ないし六、第四号証の一、二、第五号証、第六ないし第一一号証の各一、二を提出し、証人館岡鉄太郎、根深三郎、赤平純造、木田三之助、日景貞行(第一、二回)の各証言、被告本人尋問の結果を援用し、「甲第一、二号証、第三号証の一、二、第五号証の一、二、第六号証、第一一ないし第一六号証の各一、二の成立は認める。その余の甲号各証の成立は知らない」と述べた。

理由

(本訴について)

(一)  原告が、民法上の組合であることは当事者間に争なく、真正に成立したものと認める甲第一〇号証によれば、原告組合が昭和二一年三月一九日結成せられ、組合員の共有地上に立木を所有し、その保護、間伐、火防等造林施設をなすことを目的としているものであることが認められる。

(二)  原告が、昭和二九年一一月七日、被告に対し、原告組合員の共有地たる上北郡野辺地町大字野辺地字下坂八二番二号山林一一町九反九畝七歩の地上に生立する原告所有の杉、赤松および落葉松合計約八、七八〇本を代金五、一七〇、〇〇〇円で売り渡し、右代金は、同日金六七〇、〇〇〇円、同月三〇日金二、五〇〇、〇〇〇円、同年一二月一七日金二、〇〇〇、〇〇〇円と三回に分割して支払うこと、第二回分割金二、五〇〇、〇〇〇円を支払つた後は右立木全部を伐採しても差支ないこと、ただし伐採木の右山林からの搬出は代金全部を支払つた後はじめて許されること等を約定したことは当事者間に争がない。

原告は、右契約においては、被告の代金完済まで原告が伐採木全部についてその所有権を留保する約定であつたと主張するに対し、被告はこれを否認し、売買立木の所有権は契約と同時に被告に帰属したものであると抗争するから、まず、この点について判断する。

本件立木売買契約書たる甲第一号証、乙第一号証(いずれもその成立に争がない。)によれば、右所有権留保の点については何ら明示の定をしていないが、立木の引渡方法として、「正規の引渡は代金完納後なるも十一月末日金弐百五拾万円支払たる上は伐採を承認すること但し搬出は代金完納後とす」との一項をおいていることが認められる。おもうに、立木の売買においても、他の特定物の売買におけると同様原則としてその契約の効果として目的物の所有権を即時買主に移転せしめるものであることは疑ないが、当事者が特約によりこれと異なる時期において所有権移転の効果を発生せしめうるものであることも亦明白である。そして、本件立木の引渡方法に関する右認定の約定は、本件立木の所有権が売買契約によつてただちに被告に移転することなく、「代金完納」の時までこれを原告に留保することを特約したものと解釈するのが相当である。けだし、被告は、右約定により代金完納前といえども本件立木を全部伐採することをうべく、おそくとも右伐採によつてその占有を取得することとなる(原告からいえば目的物の引渡の完了)わけであるから、(契約と同時に所有権が移転していたとすれば)その後において被告の伐採木搬出や処分を妨げるべき何らの理由がないのにかかわらず、代金完済までは搬出が全く許されず、代金完済のときにおいてはじめて「正規の引渡」が行われるべき旨特に定めているのは、要するにその時まで原告が伐採木全部について所有権を留保する趣旨を表現しようとしたものと認められるからである。成立に争ない甲第一二号証の二(一部)によれば、被告自身も「代金全額を支払わないかぎり伐採木を自由にすることができない」と考えていたことが認められるのであつて、これによつても右契約の趣旨が前記のようなものであつたことをうかがうに足りる。前記甲第一二号証の二、成立に争ない乙第六、七号証の各二、同第一〇号証の二、証人日景貞行(第一回の証言中右認定に反し本件立木の所有権が契約とともに被告に移転した旨の記載、供述はこれを採用することができない。

(三)  次に、被告が前記契約当日金六七〇、〇〇〇円、昭和二九年一一月二八日金二、〇〇〇、〇〇〇円、同年一二月二三日金五〇〇、〇〇〇円の支払をしたこと、被告が昭和三〇年二月中本件立木全部の伐採を完了したことは当事者間に争がなく(ただし、右伐採をなすにつき被告に違約の点がなかつたかどうかについてはしばらくおく。)同月二四日原、被告間において当初の契約に変更を加え、残余の代金の内入をなすに従いその金額に相当する量の伐採木の搬出処分をなしうることと約定したことは原告の自認するところである。しかして、その後、被告において同年五月二二日にいたるまでの間にさらに合計金四〇〇、〇〇〇円の支払をしたこともまた当事者間に争のないところであるから、結局原告は未払代金額である金一、六〇〇、〇〇〇円に相当する量の伐採木につきなお所有権を有しているものといわなければならない。

しかして、別紙目録記載の伐採木が、被告において本件山林から伐採搬出したものであり、その数量が約一、〇五〇石であることは弁論の全趣旨により明白なところである。原告は、本件売買に係る立木の全量が約三、五〇〇石であつたから、代金全額とその未払分との割合に基き算定するときは右伐採木約一、〇五〇石はまさに右未払分に相当するものであり、原告においてこれにつき所有権を有すると主張する。そこで、本件立木の総材積につき判断するに、証人島谷善五郎の証言によつて成立を認める甲第一七号証の一ないし四、証人日景貞行(第二回)の証言によつて成立を認める乙第四号証の一、二によれば、被告が伐採した本件山林の立木の総量は少くとも三、六〇〇石であつたことを認めるに充分である(本件においては、この点につき他にも多くの書証、証言があるが、いずれも関係者の目分量による算定であり、また、右認定とていしよくするものは存しないからいちいち掲記しない。)。してみると、上述したところから明らかなように別紙目録記載の伐採木は原告の所有に属するものというべきである。(なお附言するに、ここに本件立木の数量を認定したけれども、右は本件売買が、被告の主張するように数量指示の売買であることを認めた趣旨でないことは多言を要せずして明かであると考える。)

(四)  これに対し、被告は、「本件山林からの伐採木の搬出はすべて原告の承諾をえたものであり、別紙目録伐採木についても同様である。しかして、原告が被告に対し搬出処分を許可したのは、もとよりその所有権をも移転する趣旨においてしたものであるから原告の請求は失当である」と主張する。

しかしながら、被告の主張に副う前記乙第七号証の二、同第一〇号証の二、証人日景貞行(第一回)の証言は、後記証拠に対比しにわかに信用することができず、かえつて、成立に争ない甲第二号証、同第三号証の一、二、同第五号証の一、二、同第一三ないし第一六号証の各一、二証人島谷善五郎の証言および右証言によつて真正に成立したものと認める甲第四号証の一、二によれば、被告は本件売買契約成立と同時に保証金名義で内金六七〇、〇〇〇円を支払つたが、第二回分割金二、五〇〇、〇〇〇円のうち金五〇〇、〇〇〇円および昭和二九年一二月一七日支払うべき金二、〇〇〇、〇〇〇円の支払を怠り、そのうえ契約に違背して伐採木の搬出をも開始したので、原告との間に紛争を惹起し、原告の抗議をうけて伐採木の運搬を停止し同月二三日金五〇〇、〇〇〇円の支払をしたこと、ところが、翌三〇年二月はじめ再び原告に無断伐採木を他所に発送したため原告側の憤激を買い交渉の結果、同月二四日前認定のように当初の契約を変更し入金額に応じ伐採木の搬出をなしうることに協定したこと、その後、被告は、三回にわたり合計金四〇〇、〇〇〇円を支払つたけれどもその余の入金はなさず、ややもすれば原告側の監視の眼をぬすんで伐採木を運び去ろうとし同年五月二六日にもその搬出現場を原告側に発見せられ、ここに原告も被告との円満妥結に望を断ち本訴に及んだものであること等の事実が認められる。

以上認定事実によれば、原告が別紙目録記載の伐採木につき被告にその搬出を許し、あるいは、所有権を移転したことは全くないものと認められるから被告の主張は失当である。

(五)  被告は、更に、「本件立木売買は、数量を指示してなされた売買であり、しからずとしても原告において材積の最低限を保証していたものである。しかるに現実に伐採した結果、その材積は約定の石数ないし原告の保証量にまで達しなかつた。そこで、被告において減額請求をした結果、現在までの被告の入金額ですでに過払になつており未払分はない。よつて、原告の請求は失当である」と主張する。

しかしながら、山林における立木の売買は、その目的物の数量を確定することが極度に困難であることにかんがみ、その大凡の石数を表示して契約がなされた場合であつても、民法にいわゆる数量指示の売買ではないことを原則とするものである(従つて、実在石数が右表示せられた数量とことなつていても当事者が相互に代金の増減を求めえないことは原告のいうとおりである。)けれども、これは、もとより当事者において特約をなして数量指示の売買とし、あるいは、売主において数量の最低限を保証することを妨げるものではないというべきであるから、本件において果して原告主張のような特約があつたかどうかについて考えてみる。前出甲第一二号証、乙第七号証、同第一〇号証の各一、二、成立に争ない乙第六号証、同第八号証の各一、二、証人日景貞行(第一、二回)の証言、被告本人尋問の結果によれば、本件立木売買がその材積を四、四〇〇石とする数量指示の売買であるか、ないしは原告において四、二〇〇石の実在を保証していたかのような記載あるいは供述が存するが、右各証拠は後記各証拠に対比し到底信をおきがたく、その他右特約の存在を認定するに足りる証拠はない。かえつて、前出甲第一号証、同第一二号証の一、二、同第一五号証の一、二、同第一三号証の二によつて成立を認める同第八号証の一、二によれば、本件売買契約書においては目的物件の数量として「杉赤松、唐松八千七百八拾本」と記載しておるのみで全く材積石数の記載を欠いていること、被告は右契約締結前本件山林につき毎木調査を行つていること、右契約書作成前である昭和二九年一一月二日作成された仮契約書には本件立木の数量として杉二、〇〇〇石、赤松及び唐松一、六〇〇石との記載があること等に徴するときは、本件契約が材積を四、四〇〇石とする数量指示の売買であつたとか、原告において最低石数四、二〇〇石を保証したとかいうことは到底肯認しえないものである。被告の主張は失当といわざるをえない。

(六)  以上のしだいで、別紙目録記載の伐採木約一、〇五〇石(これにつき当庁昭和三〇年(ヨ)第七六号有体動産仮処分命令による仮処分がなされ、ついで当庁同年(モ)第一九八号換価命令に基き同年八月四日金八五〇、〇〇〇円で競売に附され、執行費用金七、〇四〇円を控除し、残金八四二、九六〇円が青森地方法務局に供託されていることは当事者間に争がない。)は、原告の所有に属するというべきところ、被告がこれを否認していることは本訴の経過自体により明白であるから、原告はその確認を求める利益があること明白である。

(七)  よつて、原告の本訴請求は、正当として認容すべきものである。

(反訴について)

被告の反訴請求は、本件立木の売買が、民法にいわゆる数量を指示してなされた売買であるか、ないしは、原告において本件立木の最低実在石数を保証したことを前提とするものであるところ本件売買は数量指示の売買でもなく、又、被告主張のような保証の特約がなされたこともないことはさきに説明したとおりであるから、その余の点について判断するまでもなく失当として棄却をまぬかれない。

(結論)

よつて、訴訟費用は、本訴反訴を通じ、敗訴した被告の負担とし主文のとおり判決する。

(裁判官 飯沢源助 宮本聖司 右川亮平)

目録

(一) 上北郡野辺地町大字野辺地字下袋

青森県七戸畜産農業協同組合構内所在

杉、赤松、落松葉等伐採木約七〇〇石

(二) 同所

蒼前神社附近空地所在

杉、赤松、落葉松等伐採木約一〇〇石

(三) 同所字下坂八二番三号

同所山林内所在

杉、赤松、落葉松等伐採木約二三〇石

(四) 同町

国鉄野辺地駅附近空地所在

杉、赤松、落葉松等伐採木約二〇石

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